時は十九世紀。

世界の技術革新は蒸気機関の開発により飛躍的な進歩を遂げ、イギリスはこの産業革命の中心地として繁栄を築いた。イギリス第六代女王ヴィクトリアは世界各地を植民地化させ、イギリスを併せた大英帝国の栄華を象徴する人物となった。

しかし、ある時からヴィクトリアはその影を潜め、大英帝国支配の実権を握っていたのは「帝国騎士団」という騎士たちであった。「帝国騎士団」による統治は階級社会の溝を一層深める事となり、搾取され続ける下層階級(アンダークラス)の人々は限界を迎えようとしていた。長時間の過酷な労働を強いられ、蒸気機関を利用した工場は止まる事なく稼働し続ける。そうした多くの犠牲の下にイギリスは太陽の沈まない世界最大の工業都市となる。イギリスの首都ロンドンも、例外なく産業革命の恩恵を受け、貴族たちは栄華を極めたが、工場から排出される霧は視界に靄が掛かる程濃くなり、"霧の街"ロンドンは不穏な空気に包まれていく。

十九世紀後期になり、〈それ〉はロンドンを恐怖の渦に陥れた。貧困街(イーストエンド)の工場から発生した、高濃度の有毒物質を含んだ赤い煙。後に〈血瘴煙(けっしょうえん)〉と呼ばれるその煙は後天的な毒性を持ち、症状の発症は一六歳以降とされている。一六歳以降の発症時期や症状の重さは生活環境により異なるが、視覚や聴覚、運動能力などが徐々に低下していき、やがては全身の力を失い命も落とす。〈血瘴煙〉は霧と混ざりスモッグとなって瞬く間にロンドン全土を覆いつくした。

 

富裕街(ウエストエンド)で自由を享受する貴族たちは自己保身の為に富裕街の工場を停止させ、富裕街で行っていた作業を貧困街の工場で行うよう強制した。貧困街では労働者たちの移住による人口増加にインフラの整備が追いついておらず、彼らは劣悪な環境での生活をする事となった。さらに、「帝国騎士団」は富裕街と貧困街を巨大な壁で分断し、〈血瘴煙〉を貧困街の人々もろとも抑留しようとする。このあまりにも残酷な政策に下層階級の人々は武器を手に取り蜂起を起こしたが、「帝国騎士団」直轄の警察組織「スコットランドヤード」によって制圧されてしまう。

斯くして、貧困街の人々は〈血瘴煙〉と共に生き、死んでいく運命となる。巷では「帝国騎士団は」が〈血瘴煙〉に効く抗体を開発したと言われているが、その真偽は定かではない。例え抗体が出来ていたとしても、それは下層階級は買えない程高価な物で、富裕街の貴族たちの間でのみ出回るのだ。

壁の内側でも特に〈血瘴煙〉に触れる、蒸気機関を利用した工場で働く労働者は発症の恐れがない十六歳以下のまだ幼い孤児ばかり。日々大量の〈血瘴煙〉を吸う彼らの平均寿命は十八歳。

死ぬまで搾取されていく運命の彼らは、生きる希望という【自由】を奪われたのだ

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